2022.11.16 UP
「世界中がロシアを嫌っている。日本もそうなの?」旅先で出会ったロシア人たちの「今」と、世界への想い
ロシア・ウクライナ間の紛争は2014年から続いていますが、2022年2月に一気に情勢が緊張して以来、毎日のように世界中のメディアによって戦況が報じられています。
多くの人々がウクライナを支持・支援する一方、ロシアには厳しい目が向けられており、それはロシア政府に対する非難に留まりません。
2022年4月にJR恵比寿駅で、ロシア語の案内が覆われたできごとを覚えている人も多いでしょう(その後、元に戻されています)。
さて、2022年の夏。私は旧ソ連圏である中央アジアの国々を旅し、たくさんのロシア人に出会い、交流を重ねました。
多くの国・メディア・人々が反ロシアを唱えるなか、ロシアの人々はどのように感じ、どのように過ごしているのか。私が出会ったロシアの人々についてお伝えします。
(※この記事内容はライターが旅先で出会ったロシア人について個人的に感じたものであり、ライター本人・本メディアともに特定の国や紛争に関して非難あるいは支持をするものではありません)
(※記事内に登場するすべての人々の、名前および職業を変えて表記しています)
入国を制限されるロシアの人々
2022年7月。ある国で宿泊先に選んだゲストハウスには、たくさんのロシア人が滞在していました。
オーナーに「ここに来る観光客の多くはロシア人なの?」と聞くと「ここはロシア人にとってバカンスの選択肢のひとつだけれど、例年はこんなに多くないよ」と教えてくれました。
2022年2月以降、ロシア人が入国できる国は非常に少なく限られています。
一人旅の若者、家族連れ、大人数の大学生グループ。
傍からみるとバカンスを楽しんでいるようですが、元々は別の国に行く計画をたてていたけれど行けなかった、という人も多かったのかもしれません。
「世界中がロシアを嫌っている。日本もそうなの?」
さて、異国の大自然を味わいたかった私は、携帯電話の電波も届かない山奥の湖へ出かける1泊2日のツアーに参加しました。
それはローカル向けのツアーで、参加者は多くの現地人とロシア人観光客と私。
▲Photo by Rie Kanno
そこでツアーガイドのロシア語を理解できない私に気付き、終始英語でサポートしてくれたのが、一人旅のロシア人女性ソフィアでした。
また、昼食で同席したのは母と娘2人のロシア人ファミリー。学生だという娘のターニャは「日本がとても好き、興味がある」と、次々に日本に関する質問を浴びせます。
私もロシアには行ったことなかったので、お互いに「実は私の国ってこうだよ」「そうなの!?」という会話で盛り上がりました。
そして翌日、帰途につくバスに乗ろうという間際にターニャは「あのね」と切り出しました。
「今、ロシアとロシア人は世界中から嫌われていると思うの」
ターニャは言葉を探しながらこう続けました。
「日本人はロシア人をどう思ってる?」
彼女の中にはずっとこの問いがあったのでしょう。
そして彼女の言葉は「みんな、ロシア人が嫌い? 私たちは憎まれているの?」というようにも聞こえました。
日本では前述した恵比寿駅の事件があったほか、NHKのロシア語講座が今年度は開講されていません。
そんなことが頭をよぎる中、何と言えばいいのだろうと自分の胸の内を探ったのです。
「わからないことがあったら何でも聞いて。通訳するから」
▲Photo by Rie Kanno
その後、私はある町に移動し、こじんまりしたゲストハウスでしばらく過ごしました。
オーナー一家が使うのはロシア語と現地語のみで、どちらも話せない私はスマホの翻訳アプリを使うしかないと覚悟したのですが、ここでもロシア人の助けが。
朝、リビングで出会った灰色の目の青年が「おはよう! 僕はセルゲイ、ロシア人! 君は?」と超ハイテンションに自己紹介。
圧倒されながら日本人だと告げると「もし知りたいことや困ることがあったら言ってくれれば、僕がオーナーに聞くよ。いつでも頼って」と自ら通訳を名乗り出てくれたのです。
こうしたフレンドリーな人々との出会いを通じ、メディアの報道から受ける「ロシア」と実際に出会う「ロシア人」の印象が大きく乖離していると感じました。
避難してきたロシア人男性たち
2022年9月。ロシアで動員令が発令される可能性が示唆されると、多くのロシア人男性が他国へと避難し始めました。
私が滞在するゲストハウスにもロシア人男性が増え、なかには家族を残して単身逃れてきたパパも。
共有スペースのソファに思いつめたような目をして座る人もいれば、「この先どうするか決めていない」とため息交じりに笑う人、「俺は来月また違う国に行くよ」と新たなライフプランを立てている人と、それぞれでした。
ある青年は「僕は幸運にも航空チケットが取れたけれど、友達はお金がなくてチケットが買えなかった」と語りました。
避難できたのは、高騰する海外行きの航空チケットを購入でき、海外でも生活できる手段がある人に限られていたのです。
そんななかで出会ったのは、ロシア人デザイナーのミハイルとアーティストのイヴァン。
ともすれば暗い影を落とす人とは対照的に、ふたりは初対面から翳りを感じさせない明るい笑顔で挨拶をしてくれました。
ミハイルとイヴァンは「難民」という悲壮さを消し、他国での生活を楽しもうとしているように見えます。それをイヴァンに伝えると、彼はこんな言葉を返してくれました。
「世の中の流れや人々の意見に屈しない生き方を選んでいるし、全ての人がそれぞれの人生で”自分自身”を実現できると信じてるんだ」
国家≠人、平和を願う「個人」がほとんどであることを知ってほしい
湖のツアーで出会ったターニャの「日本でもロシアやロシア人は嫌われているのか」という質問に、私はこう答えました。
「一部の人はそうかもしれない。でも、私はロシアに興味があるし、行ってみたい。そういう人もいるよ」
この記事を読んだ人の中にも、ロシアに良い感情を抱いていない人はきっといるでしょう。けれど、ロシア=ロシアの人々ではありません。
どうか、「ロシア」という大きなくくりの中で見るのではなく、そのなかにはそれぞれ違う考え方を持ち、自分自身の人生を送る「個人」がいることを認識してもらえればと思います。
「日本」だって、いろいろな考え方を持ち、家族や友達がいて、平和を願う「個人」の集まりであるように。
(※この記事内容はライターが旅先で出会ったロシア人について個人的に感じたものであり、ライター本人・本メディアともに特定の国や紛争に関して非難あるいは支持をするものではありません)
(※記事内に登場するすべての人々の、名前および職業を変えて表記しています)