2015.11.10 UP
IT企業から転職、チーズ熟成士に!フランスのイケメン職人の話
色とりどりの野菜や果物に、ひとりでは食べきれないほど大きな肉や魚から、フレンチやスペイン風のお惣菜、デザートにワインまで一通りが揃う、フランス南西部トゥールーズ市内の大規模な朝市「ヴィクトル・ユゴー・マルシェ」。
マルシェの周辺は高級食材店やワインショップ、ブティックなどが立ち並ぶ、活気溢れるエリアです。
Photo by @sweetsholic:「ヴィクトル・ユゴー・マルシェ」から見たトゥールーズ市内の様子
その一角に店を構えるのは、市内でも屈指のチーズ専門店「Xavier(グザビエ)」。インタビュー3回目となる今回は、グザビエのオーナー兼チーズ熟成士のフランソワさんに、会社員からチーズ職人に転身した理由をうかがいます。
IT企業から転職、チーズ熟成士に
Photo by @sweetsholic:フランソワさん。手塩にかけて熟成させた新作チーズ「Le Pavé Toulousain(パヴェ・トゥールーザン)」とともに
大学卒業後は、IT企業「ヒューレット・パッカード・フランス社」のパリ支部に10年ほど勤めました。コンピューター関連製品には命があるわけではなく、道具でしかないことに対し、次第に虚しさを感じるように。
人生に意義を見出したいと思っていたとき、地元のトゥールーズでチーズ専門店を開いていた父が「引退したい」と言い出したのです。家族会議を開いた結果、わたしが跡を継ぐ決意をしました。
チーズ作りは幼少期から親しみのあるもので、10代の頃には毎週末に父のお手伝いをしていました。
会社員の頃はチーズと離れた生活を送っていましたが、若い頃の経験があるからでしょうか。チーズの熟成庫に戻ってみると、すぐにそれぞれのチーズの状態や味わいを見分けることができました。
フランス版の人間国宝「MOF」を獲得
優れた技術を持つ職人に与えられる「国家最優秀職人賞(Meilleur Ouvrier de France)」を、2011年に受賞しました。今思い返しても、恐ろしく厳しい審査を経ての受賞でした(笑)。
チーズに関するノウハウとデモンストレーションの試験があり、なかでも高度な知識を要するのが、効き酒ならぬ「効きチーズ(チーズのブラインド・テイスティング)」。
チーズ名だけでなく、チーズ作りの際に用いられる技法や熟成年数も尋ねられるなど、非常に難しいものでした。
「チーズの熟成師」はどんな職業?
Photo by @sweetsholic:「グザビエ」のチーズ熟成庫にて
わたしの仕事は、農家による手作りチーズの味わいを、熟成庫で最大限に引き出すこと。チーズの熟成を主とするところが、チーズの製造を手がける職人との違いです。
フランスには「フロマージェリー」と呼ばれるチーズ専門店も多いのですが、店内に当店のように熟成庫のある店はそれほど多くありません。というのも、チーズの熟成は複雑な作業で、多くの知識と特別な器具が必要となるからです。
当店では年間を通じて、約500種類のチーズを取り扱っており、ほぼ全て生乳(無殺菌乳)から作られた味わい深いチーズです。
伝統を守りながら、チーズのおいしさを伝えていきたい
フランスでは「一つの村に一つのチーズ」と言われるほど、チーズはその土地に根ざした食べ物です。チーズは農家の人々の生活を支える基盤であり、一般の人々の生活に欠かせないものなのです。
残念ながら現在は大量生産のチーズに押され気味ですが、生乳を使って農家が丁寧に作ったチーズと、殺菌牛乳を使った大量生産のチーズとでは、生の魚と冷凍の魚ほど味が違います。
伝統製法に基づき、生乳で作った昔ながらの本物の味わいを後世に伝えていきたいと思っています。
フランスの伝統的な食べ物でもある「チーズ、パン、ワイン」に特化したお店を開きたいと思っている、というフランソワさん。
次回インタビュー最終回は、お店の様子をレポートします! 普段はなかなか見ることのない「チーズの熟成具合の変化」や「100年前のカマンベール」など、チーズ好きなら見逃せない情報盛りだくさんでお届けします。
鈴木 香穂里
ライター/編集者/パティシエ/レシピクリエイター