ハピネス

2014.05.04 UP

血圧を読み上げるじいじと昼下がりの艶っぽいグラビア女性


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最近、右の肩がしくしくと痛むので、近所の整骨院に頻繁に通っている。

頻繁に通うと、なにが起こるかと言えば、施術をしてくださっている先生に「ひとみさん、お仕事はなにをされているのですか?」と、少々親しげに聞かれるということが起こる。

 

朝の10時とか、昼の3時に、適当なかっこうをして、主婦やおじいちゃんに混じって、整骨院の待合室で『週間現代』を読んでいる元気そうな男の生態(整体ではなく)が先生は気になるのだろうと思う。

 

施術は、クリーム色のカーテンで仕切られた個室で行われる。なぜかカーテンの向こうからよく聞こえてくるのは「****(名前)。83歳! 本日×月○日。天気、晴れ。血圧、上いくつ、下はいくつ。脈拍いくつ」と、大声で読み上げるようにして喋っているおじいちゃん。もう4回聞いた。4回とも、血圧と脈拍はほぼおなじだった。変わったのは日付と天気だけだった。

 

さらに耳を澄まして、そのおじいちゃんの施術の様子を聞いていると、女性の若い先生が「はい、**さん、今度は右腕を上げましょうね。はい、よくできました」というかんじ。

 

待合室で、一見、健康そうに見えた主婦は、カーテンで仕切られていない場所で、膝を電気治療していた。

唯一、どこが悪いのか、まったくわからなかったのは、小学生くらいの男の子で(なぜか何人もいた)、交通事故の後遺症の治療なのか、スポーツのやりすぎで治療しているのか、まったくわからない。まさか今のこの個人情報がうるさい時代に、先生に「あの子、どこが悪いんですか?」と聞けるはずもない。

ましてや、血圧を読み上げるおじいちゃんは、どこが悪いのかなんて聞けやしない。

 

ひとはみんな、外見からだけではわからないトラブルを抱えているのだと、整骨院に行くと改めて思い知らされる。

身体的なトラブルだけでなく、こころの悩みも多いのだろうと思う。

 

整骨院の個室がカーテンで仕切られているということは、隣のブースの声はまる聞こえなわけで、先生と世間話よりも込み入ったをしている患者さんがいっぱいいる(うちの息子がこうでああでとか、会社の交通費をチョロマカスのに原付で通勤していて……というような話)。

 

話をするためだけに整骨院に通っているのか? と言えば怒られると思うけど、まあ、お口のほうは達者でも足腰や肩が達者ではないから整骨院に……ということだろう。

 

初夏にさきがけて、この『アンジー』では、橘瞳子先生のセッションや交換日記などのサービスを開始したが、それは日本の医療費を減らそうという国の目標に貢献したいという主旨ではなく、ひとって誰でも話を聞いてくれて、元気づけてくれる他者がいないと生きていけないよね……という主旨で始めた。

 

整骨院は「声なき声」に満ち溢れている。

膝は痛くても文句を言わない(言えない)。パートナーや子どもや孫が、じぶんの話を聞いてくれなくて、人知れず不満を募らせていても、それを天に向かって叫ぶわけにはいかない

 

穏やかな住宅街の片隅にある整骨院は、今日も(そしてきっと明日も)声なき声に満ち満ちているのだろうと思う。待合室でぼんやり『週間現代』のグラビアを眺めているオレはまだマシなほうだ。

 

Photo by Pinterest

ひとみ しょう

ひとみしょう

(小説家/作詞家/ANGIEシニアライター)

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