趣味

2014.01.27 UP

本当の幸せって何? まだそこにある敗戦の匂いと女性の幸せ


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読み終わった直後は印象に残らない本なのに、ボディブローを食らったかのように、あとからじわりじわりと、痛みにも似た感傷が心のなかを占領していく、不思議な本があります。先日、直木賞を受賞した『昭和の犬』(姫野カオルコ 幻冬舎)です。

タイトルに「犬」が付きますが、べつに犬のことを感動的に綴った話ではありません。大きな事件も起きず、とくに恋愛要素が描かれているわけではありません。

ただ、淡々と、「柏木イク」という昭和33年生まれの女性の、5歳から49歳までの出来事が、8篇の連作長編で描かれているのです。今で言うところの「毒親」に育てられ、傍目から見ると決して「恋も仕事も順調!」とは言えないイクの人生には、いつも傍らに犬(時々猫も)がいました。愛玩犬ではなく、ただ「犬」として、持って生まれた気質で、気ままに生きる当時の犬たちに、イクはいつもじんわりと心を癒されていました。

おそらく読む人によって、受け止め方が違う、おもしろい本だと思います。「感動した!」と言う人がいれば、「かわいそう……」だと思う人もいるかもしれません。私は、淡々と自分の人生を受け止め続け、何があっても揺らがない心を持っているイクに、かなりの衝撃を受けました。

 

いい時代に生まれたと思う

 昭和33年、滋賀県で生まれイクは、幼少の頃より、さまざまな人に預けられて育ちます。ようやく両親と同居をすることができても、その家には風呂も便所も蛇口もありません。しかもシベリア抑留帰りの、いつも突然切れて暴れだす父親と、犬に噛まれた跡を見て嘲笑うような母親との生活は、心休まるヒマもありません。

それでもイクは文句ひとつ言わず、やがて大学に進学するため上京します。東京で暮らし始めても、華やかなキャンパスライフなどとは無縁で、世話になっている家の犬の散歩をして過ごすイク。

就職した後、両親が病に倒れ、27歳から49歳までずっと東京と滋賀を往復する遠距離介護を続け、49歳で自らが病に倒れても、イクはこう言うのです。

 

「自分はいい時代に生まれたと思う」

昭和という時代は戦争があり、戦後にも翳りはあったのに、その時期には自分はまだ子どもで、私は正義と平和を心から感じられた。そんな風にイクは自らの人生を受け止めていました。

私は今まで大した苦労はしていないし、好きな仕事ができて、時々恋もして恵まれているはずなのに、なぜかとても虚しくて「いい時代に生まれたと思う」とは言うことができません。だからイクが最後にたどりついた結論は、彼女がこれまで、まっすぐに前を見据えて強く生きてきた証であり、また彼女の最大の魅力でもあるように思います。

昭和という激動の時代を淡々と描いたこちらの作品。「本当の幸せとは何か?」という疑問を、心に投げかけてくる小説だと感じました。

良かったら、ぜひ一度読んでみてくださいね。

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 『昭和の犬』(姫野カオルコ 幻冬舎)

 

 

Photo by  『昭和の犬』(姫野カオルコ 幻冬舎)

さゆ

さゆ

(フリーライター)

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